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Thursday, April 22, 2010

鉄鋼のように強い汎用プラスチックの創製

【出展・引用リンク】:

 http://www.tokyo.jst.go.jp/pr/announce/20100419-2/index.html

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鉄鋼のように強い汎用プラスチックの創製



JST(理事長 北澤 宏一)産学連携事業の一環として、広島大学 大学院総合科学研究科の彦坂 正道 特任教授と岡田 聖香 博士研究員らは、鉄鋼を超える比強度注1)を持ち、安価注2)で水に浮く軽さで、リサイクルが可能なシート状の超高性能汎用高分子材料(汎用プラスチック)の創製に成功しました。
彦坂特任教授らは、融点以下に冷やした高分子の融液注3)を引っ張って結晶化させるという極めてユニークな製法により、代表的汎用プラスチックであるポリプロピレンの結晶化度をほぼ100%に高めることに成功し、引張強度をこれまでの7倍以上の230MPa(メガパスカル)に高め、比強度を鉄鋼の2~5倍にしました。しかも超高性能高分子材料は、高価でリサイクル困難なエンジニアリングプラスチック(エンプラ)や繊維強化プラスチックなどとは異なり、通常の汎用プラスチック並みに安価で成形しやすく、リサイクルが可能という大きな利点を持っています。この成果は、彦坂特任教授らによる"高分子結晶化メカニズムの解明"という基礎科学的成果の発展により得られました。
本研究成果の展開から今後、自動車や産業用の鋼板をはじめとして金属やセラミックス、エンプラ・汎用などの従来型プラスチックの代替も含めて、国内外で広く普及することにより、低コスト、省エネルギー、省資源、低炭素の持続型社会づくりへ貢献することが期待されます。同研究グループは、共同研究企業と協力して産業化を目指しています。
本研究成果は、2010年6月発行の日本の学術雑誌「Polymer Journal」に掲載される予定です。
本成果は、以下の事業・研究課題によって得られました。
研究成果最適展開支援事業 研究開発資源活用型
研究課題名「"超臨界伸長成形機"開発による超高性能高分子創製と製品化」
研究期間平成21年9月~平成24年3月
研究開発資源活用型は、産学官連携により蓄積された研究成果、人材、研究設備等の研究開発資源を有効に活用し、実機レベルでのプロトタイプ開発等、企業化に向けた研究開発を行うプログラムです。
本課題は、実機プロトタイプの超臨界伸長成形機を開発し、実用サイズの超高性能高分子材料の成形、量産技術を確立し、製品化するものです。

<研究の背景と経緯>

高分子材料は軽量・安価・高成形性といった利点から広く利用され、世界年産約3億トン弱にも達する重要な材料です。しかし、強度や耐熱性などの材料特性が金属などより著しく劣るために高度な性能要求に応えることができません。その原因は、結晶にならない部分の比率(非晶率注4))の高さにあります。結晶性高分子は長いひも状分子ですが、融液(液体)中で毛玉のように互いに絡み合う部分が多いために、これらが薄い板状結晶にしかなれず、非晶と結晶が層構造を成し「球晶」というゴルフボールのような結晶体になります(図1)。つまり、球晶内には結晶にならず、固化しただけの非晶が半分以上残ってしまうのです。そこで世界中の科学者たちは結晶化度注5)増大の方策を探求してきましたが果たされず、現在に至っています。その難点を補完するために、高強度と高耐熱性などを特長とするスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)や繊維強化プラスチックが開発され、航空機の構造材や高級産業製品などに利用されていますが、あまりにも高価なため、汎用の工業製品などに利用することは経済的に不可能でした。
彦坂特任教授は、1987年に高分子の結晶化のメカニズムを説明する「高分子滑り拡散理論注6)」を提唱して以来、「長いひも状分子である高分子」の本性に着目し、高分子の研究を続けてきましたが、結晶性高分子が融液の状態からいかにして結晶化を開始し、固体になるのかというメカニズムを解明できずにいました。
そこで彦坂特任教授と岡田博士研究員らは、(財)高輝度光科学研究センターの大型放射光施設SPring-8注7)((独)理化学研究所 所有)を利用して、高分子結晶化初期のナノレベルのメカニズム解明に乗り出しました。「結晶性高分子の結晶化初期メカニズム解明は不可能」というのが世界の高分子専門家の常識とされている中、10年近い歳月を費やして「結晶の赤ん坊」であるナノ核注8)生成の直接観察に成功し、2007年に結晶化初期のメカニズムを明らかにしました。
この「高分子結晶化メカニズムの解明」をスタートラインとして、本研究グループは、結晶化を制御することによって、従来はなかった新しい構造と活性の発現を目指す研究を続けてきました。

<研究の内容>

本研究グループが、高結晶化度と超高性能実現の方策として狙いを定めたのは、「ナノ配向注9)結晶体(NOC:Nano Oriented Crystals)」でした。ひも状の高分子鎖が、融液段階で、毛玉状に絡まっているために非晶が発生するのですから、これを一定方向にきれいに並べた上で結晶化すれば、結晶化度の高いナノ配向結晶体が実現すると考えました。
そのためには、高分子融液を引っ張って伸ばしながら結晶化させる必要があります。しかし水を引っ張ることができないのと同様に、融液つまり液体を引っ張ることは簡単にはできません。問題は、いかにして融液を伸長するかということでした。
そこで発案したのは、融点以下に冷やした高分子の融液(これを過冷却注10)融液と言う)を潰す(compress)ことによって伸長するというアイデアでした。左右に細長い溝の中に融液を入れて瞬間的に圧力を加えて潰すと、融液内には左右に広がる激流が生じ、急流にさらされた布のようにひも状分子が引き伸ばされ、高配向したナノ結晶が実現する可能性があると考えたのです(図2)。本研究グループは、このアイデアを実現して、SPring-8において観察し、この仮説の正しさをナノレベルの解析で検証することに成功しました。
次にどの程度の速さで潰せばよいかが問題になります。そこで融点以下に冷やした高分子の融液を潰す圧力と速度を変えながら伸長と配向の様子を観察したところ、1秒間に数百倍も伸長するような、大きな伸長歪み速度注11)によって、同じ結晶化温度でも結晶化が一気に100万倍も速くなる「臨界伸長歪み速度」が確認されました(図4)。
さらに、そのメカニズムを知るために、SPring-8で臨界伸長ひずみ速度以上で伸長結晶化して得られる試料の様子を観察しました。すると過冷却融液中の高分子鎖が平行に並んだ完璧に近い配向融液になり、無数の核がミリ秒オーダーで生成し、融液全体の92%が結晶化することが確認されたのです(図5)。NOCの実現が確認された瞬間です。
NOCは、引っ張り破壊強度注12)、つまり引っ張る力に耐える強度が同重量の鉄鋼の2~5倍という値を示し(図6)、しかも耐熱性は通常のポリプロピレンより50℃以上高い176℃でした(図8)。また光の波長より小さいナノ結晶であるがゆえに高い透明性を示しました(図9)。さらに何も混ぜ物を加えないので、高い収率でリサイクルができる可能性がありました。しかも高分子融液を潰すという単純な工程が加わるだけなので、従来の成形法を少し改良した成形法で成形ができるために、製造コストは従来のプラスチックと大差はありません。
さらにこのNOCをX線回折法で調べると、20~30nm(ナノメートル=10-9m)のナノ結晶が一列に並んでいました。しかも長さが2µm(マイクロメートル=10-6m)の1本のひも状分子鎖が100個以上のナノ結晶を貫いて、強い結合によって結びつけていたのです。このひも状分子は、炭素が共有結合で連なっているものなので、ダイヤモンドと同じ強度を持っています。つまり無数のナノ結晶が整然と並び、これをダイヤモンドと同等の強度を持つひも状分子がしっかりと連結している構造だったために超高性能が生まれたと考えられます。本研究グループは、この構造を「鎧モデル」と名づけました(図10)。

<今後の展開>

NOCの優れた特性は、鉄鋼の2から5倍、アルミニウムの6倍の比強度(重量当たりの引張破断強度)と、通常のプラスチックより50℃以上高い耐熱性、透過率99%の実現も可能な透明性、さらに廃材が高率で再生可能な高リサイクル率の可能性などさまざまな点があげられます。これに加え、成形性がよく錆ないなどのプラスチック本来の特性も備えています。また、NOCを折りたたんでも、力を外すと、再び元の形状に戻ります。この強靭さと弾力性の両立は、鉄鋼をはるかにしのぎます。
こうした数々の特性によって、既存の特殊な高分子材料(エンプラ)にとって代わることは十分に期待され(図11)、比強度の大きさから、鉄鋼やアルミニウムなどの金属材料に代替することで、製品の軽量化を図ることが期待されます。また、高剛性と高靱性を備え、錆ないことから、高層ビルや家屋などの建築材料にも適しており、耐水性も加味されるので、橋梁やダムなどの構造材としての利用も期待されます。
しかも透過率99%という高い透明性は、ガラスの代替材としても期待できます。
本研究グループは現在、広島大学を拠点として構造・物性研究開発を続けており、関連企業注13)も共同研究に加わり産業化を目指しています。JSTも平成18年度以降、シーズ発掘試験、育成研究、研究開発資源活用型とシームレスな支援を行っており、その推進を後押ししています(図12)。論文においては210MPaだった引張り破壊強度は、現在、230MPaに向上しており、特性は今後もさらに向上するものと予測されています。

<参考図>

図1

図1 従来型の高分子結晶の成り立ち(画像提供:広島大学 戸田 昭彦 教授)

通常、長いひも状の高分子は、融液(液体)状態では毛玉のように互いに絡み合い、結晶状態では折りたたまれるようにして厚さ10nmの薄板状の「折りたたみ鎖結晶」となります。これがさらに非晶と交互に積み重なった積層構造を構成し、これを素材として、球晶というゴルフボール状の数十~数百µmサイズの粗大な結晶を構成します。このため、その結晶化率は50%に満たず、これがプラスチックの弱さの要因となっています。
図2

図2 押し潰しによる伸長結晶化の原理図

結晶化を開始する過冷却温度に下げた高分子融液に、上部から力をかけて押し潰し、融液を急速伸長させることにより、伸長結晶化を実現します。
図3

図3 NOC生成のメカニズム

高分子の過冷却融液が押し潰されることで、高分子鎖が引き伸ばされて、配向融液となるために、微結晶の種である「ナノ核」が融液内でまんべんなく瞬時に生成されるようになります。
図4

図4 臨界伸長歪み速度の確認

10秒前後を要していた結晶化が開始されるまでの待ち時間(誘導時間)が、1秒間に200倍の伸長が実現する力を押し潰しによって加えた時点の伸長歪み速度(赤い点線部分)で、一気に10-3秒と100万倍速くなる「臨界伸長歪み速度」が発見されました。
図5

図5 NOCの結晶化

高分子融液を押し潰した瞬間にNOCが結晶化する様子をハイスピードカメラで観察した偏光顕微鏡画像。青と黄色の部分が配向結晶化している証拠です。わずか数m秒で急速に配向結晶化が進む様子が見られます。
図6

図6 プラスチックシートの引っ張り破壊強度比較

ナノ配向結晶体の引張り破壊強度は、従来の汎用プラスチックの約7倍であり、エンプラ、スーパーエンプラと同等以上であり、従来の結晶性高分子シート中では最大級の強度を示します。
図7

図7 シートの比強度の比較

図8

図8 NOCの高耐熱性

耐熱温度とは、熱変形量が3%以上となる温度を意味します。従来品(OPP)の耐熱温度と比較すると50℃以上増大しています。一般的なスーパーエンプラの耐熱温度条件は150℃以上ですが、NOCはこれを大きく上回っています。
図9

図9 結晶性高分子の透明性の比較

縦軸は透明性を示すヘイズ値注14)(資料の厚さを0.3mmに換算)。左端が透明性を高めたNOC。クリアフォルダーとは比較にならない透明であり、さらにポリスチレン製の弁当の透明な蓋より透明度はかなり高く、ガラス並みの透明度です。
図10

図10 NOCの「鎧モデル」模式図

NOCは、直径が20~30nmのナノ結晶が、伸長方向に整然と並んでいる。1本の強靭なひも状分子の長さは2µmなので、1本の分子は約100個のナノ結晶体を貫通しながら結びつけている。ダイヤモンドと同等の強度のひも状分子が、ほぼ100%結晶化されたナノ結晶を連結している様子が鎧に似ているので、その構造を「鎧モデル」と名づけました。
図11

図11 超高性能高分子材料の国内市場規模

スーパーエンプラは、フィルム、シート、板材などとして活用されており、その市場規模は7000億円を超え、世界市場の規模はその10倍です。この市場もNOCのターゲットとなります。
図12

図12 産業化を見据えた研究開発ロードマップ

<用語解説>

注1) 比強度
引張り破壊強度を比重で割った値。異種材料の強度を相互比較する場合に用いる。
注2) 安価
ポリプロピレンやポリエチレンなどは、百数十円/kgと安価である。
注3) 融液
1つの物質のみが融けた状態の液体のこと。液体は、2つ以上の物質が溶けた状態の溶液と融液に分類される。
注4) 非晶率
結晶性物質において、結晶にならずに単に固化しただけの相の比率。結晶化度に対応する用語。
注5) 結晶化度
固体に含まれる結晶の割合。
注6) 高分子滑り拡散理論
「高分子は長いひも状分子が絡み合いを解き、蛇のように滑りながら結晶格子上に配列していく」という理論。1987年に彦坂 正道 教授が提唱した。
注7) 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設。放射光は、明るく、指向性が高い電磁波。SPring-8は、世界最高の輝度、エネルギーを持つ放射光を生む能力を持ち、従来不可能とされたナノサイズの物質の構造や機能の解析に活用されている。
注8) ナノ核
結晶の赤ん坊、または種のこと。約0.数nm以上のサイズで、原子・分子で数えると数個以上集まった結晶。
注9) 配向
分子や結晶の向きが揃っていること。高分子の結晶においては、ひも状の微結晶や高分子鎖が一定方向に配列されていることを言う。
注10) 過冷却
過冷却とは物質の相変化において、変化するべき温度以下でもその状態が変化しないでいる状態のことで、過冷却度とは物質の融点と結晶化する温度との差。結晶化温度を変えることにより、過冷却度を変えることができる。
注11) 伸長歪み速度
伸長変形の速度。ある長さの試料を1秒間に伸ばした長さが元の長さの何倍かで表わす。例えば、1秒間に元の長さの10倍引き伸ばした場合は10s-1と表記する。
注12) 引っ張り破壊強度
実用材料の強度を表す基本的目安の1つ。物体を引っ張った場合に破断する強度。単位面積当たりの力で表すので、圧力と同じ単位系。従来の汎用プラスチックシート材料は、20~30MPa程度である。
注13) 関連企業
平成21年度に採択した研究開発最適展開支援事業 研究開発資源活用型においてサンアロマー(株)と(株)エフピコと共同研究を実施している。
注14) ヘイズ値
透明プラスチックの内部、または表面の不明瞭なくもり様の外観の度合い。単位は%で表す。

<論文名>

"Elongational crystallization of isotactic polypropylene forms nano-oriented crystals with ultra high performance"
(アイソタクチックポリプロピレンの伸長結晶化が、超高性能を示すナノ配向結晶体を生成した)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

彦坂 正道(ヒコサカ マサミチ)
広島大学 大学院総合科学研究科 特任教授
〒739-8521 広島県東広島市鏡山1丁目7-1
Tel:082-493-8818 Fax:082-493-8819(JST 彦坂プロジェクト)
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

渡辺 信彦(ワタナベ ノブヒコ)
科学技術振興機構 JST イノベーションプラザ広島
〒739-0046 広島県東広島市鏡山3丁目10-23
Tel:082-493-8235 Fax:082-493-8236
E-mail:

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