洋上風力発電-世界での取り組みと日本での取り組み
欧州を中心として洋上風力発電の実用化に向けた取り組みが進んでいます。 一方、日本では研究段階の取り組みはみられるものの、産業界の協力も含めた具体事業化にはまだ至っていない状況です。
世界では
洋上風力発電は世界の多くの国々で導入されていますが、なかでも、欧州がもっとも進んでいます。欧州の2009年1月時点における洋上風力の設備容量は1.5GW弱ですが、2015年には約25倍の37.4GWになるとみられています。欧州風力エネルギー協会(EWEA)によると、欧州では2030年までに300GWの風車が導入され、このうちの120GWは洋上風車であり、全世界では、1,400GWのうち、360GWが洋上風車であると予測しています。しかし、これらの洋上風力発電設備は、現状で広く用いられている着底型が殆どを占めるとされています。より深い海域に適用可能な係留型浮体の洋上風車については、研究開発から実証試験へと移行している段階です。また、今回の環境儀でご紹介した非係留型洋上風車については、世界的にも研究は殆どなされていません。
係留型浮体に関する世界規模の研究としては、国際エネルギー機関(IEA)の研究タスク23(洋上風力研究分野)のサブタスク2“Research for Deeper Water”が挙げられます。米国国立再生エネルギー研究所(NREL)が中心となって、NRELが設計した5MW風車を緊張係留式プラットフォーム(TLP)型、円柱ブイ(スパー)型、はしけ型の3種類の浮体に搭載した場合について、風車と浮体の連動した運動を数種のシミュレーションプログラムにより解析しています。これは、シミュレーションプログラム相互間の比較によりプログラムの改善を目指すとともに、各種浮体の特徴を明確にすることを目的としています。
この結果では、
TLPが陸上と同等の堅固さ有することから風車にとっては最も望ましいものの、海底との緊張係留に係るコストが高い。
TLPが陸上と同等の堅固さ有することから風車にとっては最も望ましいものの、海底との緊張係留に係るコストが高い。
スパー型は風車との相性は悪くないが、製造と設置海域に関しては制限要因となる。
はしけ型は浮体側としては製造も容易でコストも安いが揺れが大きく風車側には厳しい条件となる。
としています。
としています。
シミュレーションによる検討とともに、実海域に浮体型風車を設置する実証試験研究も始められています。Blue H USA,LLC社は、提案中のプロジェクトがイタリア政府のIndustria2015による政府支援制度に採用され、2009年2月イタリアのプーリア州沖合約20km、水深108mの海域で実証試験を始めました。基本的にはTLP構造をした浮体を採用し、風車はGamma社のGamma60(60kW)、さらに次期実証機はGamma2000(2MW)を予定しています。また、水深の目標は30m~300mです。
ノルウェーのStatoil社は、ノルウェーのカルモイ島沖合にスパー型の浮体型洋上風力プラントを設置し、2年間の試験を行う予定です。同社はこのパイロットプロジェクトの研究、建設費として4億ノルウェークローネ(日本円にして約60億円)を投資し、2009年夏から秋にかけて設置を行い、発電を始める予定です。水深はコストを考慮して120m~700mまでの海域を想定しています。風力発電容量は2.3MWで、発電電力は海底ケーブルで陸上へ送電されます。
また、従来の浮体形状にとらわれずに、新たな構想で風車-浮体システムの提案も出ています。ノルウェーのStatKraft社、NLI Innovation社、FORCE Technology社による合弁事業WindSeaは、次世代浮体式風力プラントを考案しています。WindSeaの特徴は、風力プラントを安定させ、修理・保守のアクセスを容易にし、設置と移動が迅速かつ効率的に実現できるように、三角形の浮体式プラットフォームの角に風車をたてるものです。プラットフォームあたりの発電容量は10MWであり、30プラットフォーム(90タービン)から構成される風力プラントで、年間1200GWhの電力を生産します。早ければ、2011年にプロトタイプの設置を行うように計画しています。デンマーク工科大学のVitaは、重い機器を下部に設置できる垂直軸型風車を採用したシステムを検討しています。
日本では
日本では21世紀初頭に、日本海洋開発産業協会(JOIA)により浮体型洋上風車についての統括的な検討がなされました。当時までに大学、民間、国立試験研究機関等で行われていた研究をとりまとめ、複数の浮体構造について設計・製造シナリオを作成し、経済コスト等の試算まで行われましたが、発電単価が高く事業性の目途が立たないという結論が得られました。しかし、この時の検討を元にして、東京大学及び海上技術安全研究所などを中心として係留浮体型の洋上風車について更なる研究開発が続けられています。東京大学においては東京電力技術開発研究所等との共同研究により、コンクリート製の擬三角形のセミサブ型浮体上に3台風車を搭載するタイプの開発研究を行っています。海上技術安全研究所においては、東京大学・東海大学や三井造船等との共同研究で、揺れの少ない改良型はしけ型浮体の研究開発が行われました。また、京都大学においても、戸田建設、佐世保重工、海上技術安全研究所等との共同研究で、スパー型浮体を用いた洋上風車の開発研究が行われています。
しかし、開発研究の進捗状況は欧州に比べると遅れていて、机上の詳細設計まで進んだ研究はあるのですが、数十億円規模の予算が必要となるMWクラスの風車を搭載した実機サイズの浮体型風力発電システムの実証実験はできていません。しかし、2009年には京都大学チームによる1/10モデルの実海域実験が行われました。
国立環境研究所及び環境省では
2003年に開始した環境省のエネルギー特別会計を活用して、国立環境研究所において今回の環境儀でご紹介したプロジェクトを5年間にわたり実施しました。国立環境研究所は、この分野のシーズとなる技術は持ち合わせていませんので、民間企業や大学などの風車、浮体、海水電気分解、浮体航行を専門とされている研究者、技術者の方々にご協力を頂いてプロジェクトを進めました。国立環境研究所からは、環境保全特に二酸化炭素の排出削減という観点で、外部条件に制限を加えた要求仕様を提示させて頂きました。この仕様は、通常の速く航行したり、可載重量を大きくしたり、コストの切り詰めなどという、通常の要求とは異なるものであったため、参加メンバーにはご苦労をかけました。
このプロジェクトの終了後、環境省でも洋上風力発電のポテンシャル拡大に興味を持って頂け、2008年度には係留型浮体を設置すべき海域を検討する研究、2009-2010年度には洋上風を広範囲に観測・評価する研究に対して、エネルギー特別会計経費を充当して頂きました。また、実証試験の呼び水となる経費が2010年度政府予算において認められることになりました。今後の日本における浮体型洋上風力発電に係る研究開発の進展が期待されます。
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