http://wiredvision.jp/news/201001/2010012023.html
【引用始め】:以下の通り
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地球の東半球と西半球。Image:NASA
2009年12月9日付けの『米国科学アカデミー紀要』(PNAS)は、地球環境における転換点(tipping elements)という特集を掲載した。転換点とは、限界を超えたときに大規模な変化を起こし、元の安定性には戻らなくなる可能性があるポイントだ。
海流や海底メタンなど、地球の「転換点」になりうる領域について紹介していこう。
両極の氷
北極海の海氷が融解しつつあることは、今や広く知られている[氷がなくなったため、「北西航路」が開通したという日本語版記事はこちら]。この現象は加速している、つまり、氷が溶けると、暗い部分が出来るためさらに温度が上がるということも主張されている。
ただし、独マックス・プランク研究所の気象学者Dirk Notz氏は、北極海については、冬になると再び凍るという逆のプロセスがあるため、温暖化が止まったとしたら元に戻る可能性があると考えている。しかし同氏は、南極海の海氷については楽観的には考えていない。
南極海の氷床は、渦を巻く南洋の海流によって暖められている。また、西南極およびグリーンランドの氷床は、過去数百万年の間に少なくとも2回、急速に縮小(溶解)しており、この動きは気候モデルによって裏づけされている。
これらの氷床が「崩壊する可能性への転換点が存在するということは、充分にありうる」と、Notz氏は『米国科学アカデミー紀要』(PNAS)の論文で述べている。「それにより氷床が失われ、一定レベルの温暖化の枠を超えて、抑止不可能な海面上昇を引き起こす」可能性があるというのだ。
メタンハイドレート
北極海の海底から浮上するメタンの上昇流。Image:National Oceanography Centre, Southampton
700兆トンから1万兆トンと推定されるメタンハイドレートが、何百万年をかけて蓄積した海底の堆積物中に存在している。[メタンハイドレート(Methane hydrate)は、メタンを中心にして周囲を水分子が囲んだ形になっている固体結晶。見た目は氷に似ており、火をつけると燃えるために「燃える氷」と言われることもある。体積の8割が水、2割がメタン。シベリアなどの永久凍土の地下数100m〜1000mの堆積物中や海底に存在する]
メタンは強力な温室効果ガスだ。もし地球の気温が摂氏3度上昇すれば(これは温暖化ガスの水準が高いままであった場合、可能性があるとされる気温上昇の範囲内の数字だ)、海底の温度が上昇し、これらのメタンが放出される可能性がある。化石燃料の使用が止まったとしても、メタンによる温暖化は続くと予測する研究者もいる。
[メタンは二酸化炭素の20倍の温室効果があるとされている。地球温暖化が進むと海水温が上がり、メタンが大気中に放出され、さらに温暖化がすすむという悪循環が生じるという仮説がある。2億5千万年前のP-T境界ではこの現象が実際におこり、大量絶滅をより深刻なものにしたとされている。
なお、メタンハイドレードはエネルギー問題を解決する可能性も期待されているが、日本政府が試掘を行なっている南海トラフでは現有する採掘技術を使用して採掘・生産しても経済的には全く引き合わないため、商業生産に向けた民間レベルでの採掘計画は存在しない。メタンハイドレードについての日本語版記事はこちら]
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【出展引用リンク2】:
地球環境7つの転換点(2):海流と砂塵
(1)から続く
メキシコ湾流
メキシコ湾流(Gulf Stream)は、メキシコ湾付近で発生し、北米の東海岸沿いを北上してから、北欧および西アフリカに向かう2つの流れに分かれる。[メキシコ湾流は、黒潮と並ぶ世界最大の海流。南から暖かい海水を運ぶため暖流に分類され、イギリスなどヨーロッパの高緯度地域を温暖な気候に保つのに重要な役割をしている]
前回の氷河期の間に、この海流の速度が突然低下することが繰り返し起こっている。この速度低下が、主に風を原因とするのか、あるいは氷床の溶解による淡水の流入を原因とするのかをめぐって、議論が行なわれている。
『気候変動に関する政府間パネル』(IPCC)は最新の報告書のなかで、21世紀におけるメキシコ湾流の速度低下の危険性を10%ととしている。
淡水の流入によって、北大西洋の子午面循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation:AMOC)の温度が下がることを示すモデル。Image:National Center for Atmospheric Research
チャドからの砂塵
Image:NASA
サハラ砂漠に位置する、古代の湖底の堆積物に覆われた広大なボデレ低地では、その全域を吹き付ける風によって、1年間に70万トンの砂塵が大気に巻き上げられる。
その砂塵は世界中を舞い、日光を遮るほか、ある地域では気温の低下を、また他の地域では降雨や気温上昇を引き起こす原因となっている。影響は、大西洋地域の生態系や、カリブ海の珊瑚礁、アマゾンなどにも及ぶとされている。
小さな気候変動でも、この砂塵に大きな影響を及ぼしうる、とPNASで論じるのは、オックスフォード大学のアフリカ気候の研究者たちだ。「かなりの不確実性があるものの、21世紀におけるいくつかのシミュレーションでは、砂塵の大幅な増加が起こる可能性が示唆されている」という。
[ボデレ低地はチャド中央部にある盆地で、200km四方に広がっている。かつてはチャド湖ともつながる巨大な湖が存在していたが、サハラ砂漠全域の乾燥化とともに湖は干上がり、ほぼ全域が巨大な砂丘によって覆われるようになった。この大量の砂塵は貿易風(ハルマッタン)によって巻き上げられ、遠く地中海やアマゾンにまで降り注いでいる]
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地球環境7つの転換点(3):モンスーンと熱帯雨林
(2)から続く
南アジアのモンスーン
アジアでは何百万人という人々が、農業に関して、定期的に訪れるモンスーンの降雨に依存している。だが歴史的に見ると、モンスーンの動きは気まぐれだ。現在のインドと中国において、モンスーンは前回の氷河期が終わってから、数回は突然の変化を見せている。
「われわれは、降雨を調べるために古代からの記録を取ってきた。すると、ほとんどスイッチのようなものがあったのが分かる。モンスーンのスイッチが入ることもあれば、入らないこともある。両者の差は非常に小さい」と、独ポツダム気候変動研究所の気候システム力学教授Anders Levermann氏は述べている。
そのスイッチを、地球の気候変動が切り替える可能性はあるが、これが唯一の原因というわけではない。「森林が砂漠へと変化すると、より多くの日光を反射し、気温は低下する。また、強力な大気汚染は日光を反射するので、何らかの変化を引き起こす可能性がある。これら両方の問題が、インドと中国の地域に存在する」
アマゾンの熱帯雨林
アマゾンの熱帯雨林は、莫大な量の炭素を保存している。これが破壊されることは、地球温暖化を劇的に変化させるだろう。
ただし、気温の上昇と天候パターンの変動自体によってアマゾンのジャングルの森林破壊が起こることはないだろうと、オックスフォード大学の生態系科学者Yadvinder Malhi氏が率いる研究者たちは、PNASの論文に記している。だが、森林破壊が乾季の激化と重なると、火災が起こりやすくなり、気候変動に寄与する森林崩壊をさらに引き起こすという。
[世界の熱帯雨林が破壊されていく速度は、毎秒0.5〜0.8ヘクタール。かつて地表の14%を覆っていたとされる熱帯雨林が、現在は6%まで減少し、このペースで減少が続けば、40年で地球上から消滅するものと予測されている。
アマゾン地域では、最初に道路が建設され、その後、小さな農地を得るために土地が開拓される。そして数年後に、その土地は侵食され荒廃する。作物生産量の低さに苦しむ農民らは、その土地を牧畜向けに変換し、作物のためにさらに森林を伐採する。その後、多数の蓄牛を所有する人が土地を購入する。こういった過程が繰り返されるという]
[日本語版:ガリレオ-向井朋子/合原弘子]
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